目頭の腫れは涙嚢炎かも?
涙嚢炎(るいのうえん)とは、涙を鼻へ排出する通り道である涙道が詰まることで、涙が鼻に流れず涙道の一部である涙嚢に溜まり、炎症を引き起こした状態を指します。
初期の症状は目やにや涙目程度ですが、次第に炎症部分の赤みや腫れ、痛みが現れるようになります。
涙はまぶたの上にある涙腺で生成され、目の乾燥防止や栄養供給、異物の除去、感染予防などの役割を果たしています。その涙が流れる涙道の涙嚢にたまり、細菌が増殖することで炎症が起こるのが涙嚢炎です。
なお、涙嚢炎は新生児や高齢者に多く見られますが、発症の原因はそれぞれ異なります。
目頭の腫れで他に考えられる病気
眼窩脂肪の突出
加齢に伴い、眼の周囲の脂肪(眼窩脂肪)が前方に突出してしまう状態です。
この膨らみを改善するには外科的に脂肪を切除する方法しかありませんが、見た目の問題に限られるため、厳密には保険診療の対象外と考えられます。
霰粒腫
霰粒腫は「めいぼ」とも呼ばれ、まぶたに硬めのしこりができます。通常はあまり痛みませんが、急性の炎症が起こると痛みが生じます。これは、目の油分を分泌するマイボーム腺が詰まり、おかゆ状の分泌物が溜まってしこりができるためです。
結膜浮腫
何らかの原因で結膜に水分がたまり、むくみが生じて水ぶくれのように腫れあがる状態を結膜浮腫といいます。
その程度はさまざまで、白目の一部がわずかに盛り上がるものから、白目全体がゼリー状に腫れてまぶたが閉じられなくなるケースもあります。
汗管腫
汗管腫は、汗を分泌するエクリン汗腺の細胞が増殖してできる盛り上がりで、主に女性のまぶたや目の下に現れます。原因は明確ではありませんが、遺伝的要素や思春期以降のホルモンバランスの変化が関係していると考えられています。
良性の腫瘍なので放置しても問題ありませんが、気になる場合はご相談ください。
涙嚢炎
涙嚢炎の症状
涙嚢炎が起こると、初期には目やにや涙目、そして無意識のうちに涙があふれるといった症状が現れます。
症状が進むと、涙嚢のある目頭の皮膚が赤く腫れ、痛みを伴うようになります。
さらに化膿が進んでいる場合は、涙嚢を軽く押すと涙点から膿が排出されることもあります。
涙嚢炎の原因
涙嚢炎の主な原因は、涙道の一部である鼻涙管が閉塞する「鼻涙管閉塞」です。
涙嚢炎は新生児と高齢者によく見られますが、鼻涙管が閉塞する原因は年齢によって異なります。
先天性鼻涙管閉塞(新生児)
新生児に見られる先天性鼻涙管閉塞は、本来誕生時に消失するはずの鼻涙管の膜が、出生後も残っているために起こります。
後天性鼻涙管閉塞(高齢者)
高齢者に多い後天性鼻涙管閉塞は、加齢によって鼻涙管が狭くなることが主な原因とされています。
その他、鼻腔内の炎症や外傷、腫瘍による圧迫も原因として挙げられます。
涙嚢炎の検査
検査では、涙道の閉塞の有無を調べるために、涙点から水を注入して流れを確認する「涙道通水検査」を実施します。
その他、一般的な眼科検査のほか、必要に応じて画像検査や細菌検査を行う場合もあります。
涙道通水検査
生理食塩水を涙点から注入し、涙道を通って鼻へ排出される過程を観察する検査です。
水が正常に鼻へ排出されない場合は、涙道のどこかが閉塞している可能性が考えられます。
画像検査
涙嚢炎の原因には鼻の病気や、まれに涙嚢や副鼻腔内の腫瘍が関与していることがあります。
その疑いがある場合には、頭部CTやMRI検査が行われます。
医師が詳細な検査を必要と判断した際は、連携する病院を紹介いたします。
細菌検査
細菌感染が疑われる場合は、腫れた部分に針を刺して膿を採取し、細菌検査を実施して原因菌を特定することがあります。
原因菌を明らかにすることで、抗菌薬治療の際により効果的な薬を選択できるようになります。
涙嚢炎の治療
涙嚢炎の治療法は、先天性鼻涙管閉塞と後天性鼻涙管閉塞で異なります。
先天性鼻涙管閉塞の場合
新生児にみられる先天性鼻涙管閉塞は、多くの場合自然に治ることが期待されますが、目やにが多い場合は抗菌薬の点眼や、涙嚢部分を皮膚の上からマッサージすることで詰まりが改善することもあります。これらの処置で改善しない場合は、鼻涙管開放術という涙点から細い針を入れて閉塞している膜を破る治療が検討されることもあります。ただし、自然治癒が見込まれることや新生児に全身麻酔が必要となることから、治療の必要性やタイミングは慎重に判断されます。
後天性鼻涙管閉塞の場合
高齢者に多い後天性鼻涙管閉塞では、点眼薬だけでなく点滴や内服による抗菌薬の使用が考慮されます。鼻涙管開放術という涙点から細い針を入れて閉塞している膜を破る治療が検討されることもあります。化膿して膿が溜まっている場合は、炎症部に針を刺して膿を排出する処置を行い、症状や原因に応じて手術治療を検討します。
目頭の腫れ・膨らみはご相談ください
目頭の腫れや膨らみは、涙嚢炎、加齢による眼窩脂肪の突出、霰粒腫、結膜浮腫、汗管腫など、さまざまな原因が考えられます。原因によって対処法や治療法が異なるため、気になる症状があれば眼科を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。
当院では目頭の腫れに関する診察・治療を行っており、原因を丁寧に見極めながら、一人ひとりに合わせたきめ細やかな対応を心がけております。
赤ちゃんの目頭を押すと膿が出る場合もご相談ください
涙嚢にたまった涙は細菌が繁殖しやすく、目やにが多く出ることがあります。「赤ちゃんの目やにが頻繁に出る」「拭いてもすぐに目やにが溜まる」といった場合は、新生児涙嚢炎の可能性が高いです。
鼻涙管の詰まりが原因となることが多いものの、赤ちゃんの鼻涙道は細いため、特に問題がなくても涙嚢炎になりやすい傾向があります。目やにが出ている際は、お湯で湿らせた清潔なガーゼでこまめに拭き取り、眼科で経過を観察しましょう。
充血や腫れ、目頭を押したときに膿が出る症状が続く場合は、治療が必要です。治療では、涙嚢に水を通して鼻涙管を開ける処置を1〜2週間に1回のペースで行いながら、抗菌薬の点眼を併用します。
この治療を1〜3か月続けても改善しない場合は、ブジーという細い針金を使って鼻涙管の膜を切開する方法を検討します。