網膜静脈閉塞症とは
人が物を見る際にカメラのフィルムの役割を果たす網膜は、多量の酸素を必要とするため、それを供給するための多くの血管が存在します。血管には、心臓から酸素を運ぶ「動脈」と、血液が流れ出る「静脈」の2種類があります。網膜静脈閉塞症は、この網膜の静脈が詰まる(閉塞する)ことで血流が悪化し、その結果、視覚に障害が生じる病気です。
網膜静脈閉塞症の症状
静脈の閉塞が起きた場所によって、症状や視力低下の程度は異なります。
網膜の静脈は枝分かれして全体に広がり、眼球の後方で1本に集まって「中心静脈」を形成しています。
網膜静脈閉塞症は、枝分かれした静脈が閉塞する「網膜静脈分岐閉塞症」と、中心静脈が閉塞する「網膜中心静脈閉塞症」の2種類に分けられます。
網膜静脈分岐閉塞症の症状
枝分かれした静脈が詰まると、詰まった部分の末端から血液があふれ出し、血管にむくみ(網膜浮腫)や出血を引き起こします。出血した部位によって、網膜に届く光が遮られ、視野の一部または全体がぼやけて見えることがあります。出血は時間とともに改善しますが、その後の視力は網膜浮腫の程度によって左右されます。特に浮腫が黄斑(網膜の中心部)まで及ぶと、重度の視力障害を招きます。
網膜中心静脈閉塞症の症状
中心静脈が詰まることで影響は網膜全体に広がります。眼底には広範囲の出血や網膜浮腫が起こり、黄斑浮腫により深刻な視力低下が生じます。さらに血流が悪化すると酸素や栄養不足により、新たに異常な血管(新生血管)が形成されます。この新生血管は非常に脆いため破裂しやすく、眼内に出血(硝子体出血)を引き起こし、慢性的な合併症の原因となります。また、新生血管が眼圧調節を行う隅角まで達すると、新生血管緑内障を発症し、最悪の場合は失明に至ることもあります。
網膜静脈閉塞症の原因
網膜静脈閉塞症の主な原因は、高血圧による動脈硬化です。動脈硬化が進むと、動脈が静脈に圧力をかけ続け、その結果静脈内の血流が悪化します。血液が徐々に固まりやすくなり、最終的に血管が詰まってしまいます。糖尿病を抱えている方や高齢者、肥満の方など、高血圧のリスクが高い人に発症が多く見られます。
網膜静脈閉塞症の検査方法
眼底検査
散瞳薬を点眼した後、細隙灯顕微鏡などで網膜の状態や眼底の出血の有無を確認します。検査後4~5時間は散瞳薬の影響でまぶしさを感じやすくなるため、ご自身による車などの運転には注意が必要です。
眼底三次元画像解析検査(OCT)、OCTアンギオグラフィー
網膜静脈閉塞症の詳細な状態を調べる検査で、網膜や黄斑のむくみや組織障害の程度など、眼底の状況をより詳しく把握できます。
蛍光眼底造影(FAG)
フルオレセインという造影剤を用いて、網膜静脈の血流や閉塞の程度、血液成分の漏れ、新生血管の有無などを調べる検査です。
網膜静脈閉塞症の治し方は?
閉塞の場所や程度、進行状況に応じて治療法は異なります。主に以下の方法が用いられます。
硝子体注射(抗VEGF療法)・ステロイド療法
浮腫の原因となり、新生血管の活性化を促すVEGF(血管内皮増殖因子)に対して、『抗VEGF薬』を眼内に注射し、浮腫の改善と新生血管の抑制を図ります。
レーザー治療(網膜光凝固術)
血流が悪くなり浮腫が発生している部分にレーザーを照射し、網膜を凝固させます。これにより網膜内に溜まった血液成分の吸収を促進し、浮腫を軽減します。
網膜静脈閉塞症を放置するとどうなる?
網膜中心静脈閉塞症は放置すると失明に至ることもありますが、急に視力が低下しても眼痛などの自覚症状がないため、受診が遅れがちです。一度ダメージを受けた神経細胞は回復しないため、そのまま視力が回復しないリスクがあります。早期に治療を始めるほど視力回復の可能性が高まるため、特に50歳以上の方は定期的に眼科を受診し、検査を受けることが重要です。